抽象,抽象化について
2012 年2月1日
情報の世界でも,抽象や抽象化という言葉が多く使われます.これらを「曖昧」と言う意味で使っていることは希なことです.
abstractやabstractionを,「抽象」と訳すときの「象」とは,かたち,姿,かたどりを意味します.「抽象」は,「かたち,姿,かたどりを外に引き出す」を意味します.これは,対象としているものを特徴づける重要な性質を取り出すことです.一般的ではありませんが,文脈によっては,「抽出」と訳してもいい場合もあります.
abstractionは,「抽象化」で,対象の振舞いや特性を決定する,本質的な重要な性質を抽出することです.枝葉末節な事柄や実現方法は表に出さない,ということです.曖昧にするとか,現実離れというような意味を強調すべきではありません.
形容詞abstractは,「抽象的」です.抽象という日本語は,事物が一般的にとらえられているという意味と,具体性がない,曖昧という意味があります.abstractも曖昧という意味がありますが,日本語では,一般的という意味を捨て去ってしまうことが多々ありますので,注意が必要です.曖昧にするとか,現実離れというような意味を強調すべきではありません.abstractは「曖昧な」という意味とは限りません.
論文のアブストラクトは,明らかに,論文に書いてある重要なことを抽出したもの,論文概要です.曖昧であってはいけません.
動詞abstractは,「抽象化する,抽出する,取り出す,要約する」です.辞書にある「抽象化する」「取り出す」「要約する」の中でどれがいいのかというのは,択一問題ではないのです.もともと, abstractが「本質的なものを外に顕在化する」という意味があって,この言葉を使う状況で,日本語に直すと「抽象化する,抽出する,取り出す,要約する」などになる,ということです.
abstract data typeもabstract
syntaxは,曖昧なデータ型や構文規則ではありません.
abstractは,general 「一般的」という言葉に置き換えてもよい場合もあります.concrete 「具体的」は,abstract 「抽象的」, general 「一般的」という言葉の持つ,一般的な性質を抽出したものというニュアンスに対して,具体的な事物を指します.
concreteな事物から,一般的な性質,特性を抽出したとき.abstractという言葉を使うことが多いです.
この言葉の事例は,下記にあります.
concrete, abstract, general: 具体的,抽象的,一般的
情報系+α ことのは辞典,伊藤 潔,近代科学社,ISBN:978-4-7649-0397-5,2011/9.