重なる,だぶる,かぶる
上智大学 伊藤 潔
2009年1月1日
疑問な日本語 の項で書きましたように,「かぶる」という言葉がよく使われています.この「かぶる」で,「重なる」という言葉が揺れています.
何かの上に別の何かを置いた状態を,overlap
「重なる」といいます.この「重なる」を「かぶる」ということが多くなっています.
写真の色ずれのことを,「かぶり」といいます.テレビ放送の業界で,ある人の前に別の人が立って遮っているときに,別の人が重なって見えない状態を,「かぶっている」と言うようです.この言い方が日常でも使われ,さらに,この視覚的なことを離れた状況でも,重なっていることを「かぶる」と言っています.例えば,オーバブッキングのことを,「予約がかぶっている」とか,既に予定が入っているときに,同じ日程になってしまうことを,「予定がかぶる」などです.
「だぶる」も不思議な言葉で,英語のdoubleの音がその意味と共に日本語化したようで,「二重になる,重なる」という意味で使われます.「重なる」は五段活用で変化しますが,これと同じように「だぶる」も変化できるので,「だぶる」が動詞として定着したのでしょう.動詞の連用形は名詞としても使われるので,「重なる」の連用形「重なり」が名詞となるように,「だぶる」の連用形「だぶり」も名詞として使われています.「だぶる」「だぶり」は,日本語として定着しています.
(^oo^) troubleも「とらぶっている」という言い方を聞きますが,さすがに「とらぶる」が五段活用することはなく,ましてや「とらぶり」などという名詞は使いません.
「かぶる」は,「被る」と書き,本来は,帽子などをかぶる,水をかぶるなど,上に,一部あるいはすっぽり,載せる,覆うという意味です.あるいは,「罪を被る」というように背負い込んだりすることを言います.「重なる,重ねる」という意味は本来ありません.
また,「かぶり」は「被り」で,被る物を意味します.あるいは,音では「頭(かぶり)」もあります.「重なり」という意味は本来ありません.
それで,普通の「重なる」「だぶる」という,帽子も被っていない状態を,「かぶる」「かぶり」というのは違和感があります.
(^oo^) 帽子をかぶっている人を上から写せば,確かに頭(かぶり)の上に重なっている写真になります.