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情報学の散策と思索

 

virtual と 仮想

                                                                                      上智大学 伊藤 潔

                                                                                            2016年11月23日

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 virtual は,「仮想」と訳されていますが,この英語と日本語には,少し隔たりがあると思われます.そのため,誤解釈も生じています.

 

 広辞苑によると,仮想は,「仮に考えること,仮に想定すること」,明鏡国語辞典によれば,「実際にないことを,仮に現実のこととして考えること.仮の想定」とあります.

 

 リーダーズ英和辞典によると,virtual は,「(表面的にはまたは名目上はそうではないが)事実上の,実質上の,実際上の;仮想の」とあります.“virtual XX”という言葉は,「表面的には,あるいは名目上はXXではないが,実質的にXX」ということになります.OALD (Oxford Advanced Learner’s Dictionary)によると virtual は,"almost or very nearly the thing described, so that any slight difference is not important" とあり,ちょっとの違いは重要でなく,着目しているものにほとんど,極めて近い ということです.

 

 virtual XX は,第一義が「XXのように見える」ということではなく.「XXとして見る」ということです.「XXとして見る」ようにすれば,結果として,「XXのように見える」ことになります.「XXとして見る」ためには,何らかのことを前提としたり,何らかの方策を施しています.

 

 virtual Mondayの間違った解釈は,「長い休みが続き,水曜が休み明けだったので,月曜のような気がする」です.virtual Friday の間違った解釈は,「明日から休みなので,今日は木曜なのに,金曜のような気がする」です. 例えば.水曜だが,月曜のスケジュールということにして,会社や学校が動くというのがvirtual Monday です.「みなし月曜日」です.「長い休みが続き,水曜が休み明けだったので,月曜の日程で始業する」のであれば,virtual Mondayです.

 

 virtual memoryは,仮想記憶と訳されます.主記憶は,コンピュータ内部の記憶装置ですが,ディスクなどの補助記憶装置はコンピュータ外部の記憶装置で,データの本来のやりとりは,入出力装置と同様に扱われるものです.主記憶の容量が少なかった時代に,できるだけ大きなプログラムを,小規模なプログラム(主記憶に全部入っている)の実行と同じように,実行できる仕組みを,オペレーティングシステムが,提供するようになりました.

 

 主記憶が膨大な量になった現代でも,この仕掛けが無用になったというわけではなく,ますますその効用が増しています.コンピュータで行わなければならないこと,行いたいことがたくさんに増えて,その結果,プログラムも膨大になり,主記憶に一度には収容できなかったり,いくつかのプログラムを同時に走らせて,主記憶に収容できなかったりで,このvirtual memoryの仕組みの効用は,現代でも極めて高いものです.virtual memoryは,ユーザには意識させないで,補助記憶も含めて大容量の記憶装置全体を,「実質的に主記憶」として扱う」仕組みです.

 

 仮想記憶は,補助記憶を主記憶として,仮に想定したものではなく,オペレーティングシステムが仕掛けを用意して,補助記憶を含めて主記憶として全体を見ることができる,ということです.結果として,膨大な容量を持った主記憶があるように見えることになります.

 virtual machineは,仮想機械と訳されます.プログラミング言語で書かれたソースプログラムを実行するには,通常,コンパイルとリンクを経て,コンピュータにわかる,機械語のプログラムに変換して実行させる方式と,ソースプログラムをあるプログラミング言語のレベルで解釈実行するインタプリタによる方式の2種類があります.後者のインタプリタの方式で実行されていることを,virtual machineで実行されていると言います.これは,インタプリタという仕掛けを作ることで,「そのプログラム言語のレベルの機械が実質的に存在する」ということです.

 virtual reality(仮想現実)の意味は,コンピュータの中に現実と見た目が変わらないものを作り出し,表示する手法です.「リアルに」見せたり,聞いたりできる,あるいは,もっと進んで,工学的な実在物の性質を持ったものをコンピュータの中にモデルとして作り出しておいて,特性を表示したり,シミュレーションできることを言います.realtyですから,仮想現実“感”の方がいい感じです.これは視覚に訴えるものですから,現実のように見えます.

 リアルな表示とか,コンピュータ内部に特性をもっているので,ほぼ,本物のように扱えるので,「実質的な現実感を味わえる」という感覚です.

 virtual laboratoryという言葉もあります.

 virtual universityは,地理的に分散していても,コンピュータネットワークでつながれたコンピュータ上に大学機能(講義,教材,学籍管理など)が入っていて,「実質的な大学」ということです.

 virtual enterpriseは,本来は1つの会社ではありませんが,コンピュータネットワークでつながれた複数の会社が「実質的に1つの会社」そのものとして機能していることをいいます.

 virtual private networkは,本来は,private network「専用ネットワーク」ではありませんが,暗号化などを行って,セキュリティを向上させて,「実質的にprivate network」そのものとして機能していることをいいます.

 仮想敵国は,imaginary (hypothetical) enemyですが,この「仮想」は,「想像上の,想定・仮定した」ということです.この仮想は,日本語の意味での仮想に近いものです.決して,virtual enemyと言いません.こう言ってしまうと,コンピュータ上での敵(ゲームでしょうか?)になってしまうか,「実質的な敵」という意味になってしまいます.大変なことです.

 

       
  virtual  仮想的 実質的.仮の想定と言いながら,「実質的にはそのもの」という感覚
       
  virtual XX 仮想XX 表面的には,あるいは名目上はXXではないが,実質的にXX
  virtual memory 仮想記憶 実質的に主記憶
  virtual machine 仮想機械 そのプログラム言語のレベルの機械が実質的に存在する
  virtual reality 仮想現実 実質的な現実感を味わえる
  virtual laboratory    
  virtual university   実質的な大学
  virtual enterprise   実質的に1つの会社
  virtual private network   実質的にprivate network