threshold value,閾値:「しきい値」か「いき値」か
上智大学 伊藤 潔
2005年10月1日
漢字の読み方のテストとしては,「しきい値」は,間違いでしょう.しかし,語義,意味的には,そうとも言えない,単純に誤用とはいえない難しさがあります.
「threshold
value,閾値」の意味は,「観測している変数があって,その値によって反応が転換する境界点のこと,その値によって制御量や制御の仕方を変える境界点のこと,あるいは,値によって領域に分けるときの境界点のこと」
です.
例えば,室温が28度を超えたらエアコンが作動する,では,観測される変数は温度で,threshold
valueは28です.
「閾値」と書いて,「いき値」と読むのが,漢字の読みでは正当です.「しきい値」と読んでいることもあります.「しきい」は,敷居が連想されます.この連想はそれでいいのです.
漢字源によると,「閾は,門の下部にあって,とびらをとめ,内部と外部とをわける境の横木.しきみ,しきい.」とあります.
藤堂 明保:漢字源(改訂新版),学研 2002,ISBN 4-05-300889-1
意味は,内部と外部との区切りのことになります.「閾」という字を観察すると,「域」のつくりが,門構えの中に入っていることに着目できます.
字通によると,要約ですが,「閾は,「梱」の親字の「門構えの中に困」(印字できません)と同種で,門による限りを意味する」ということです.
白川静:字通,平凡社 1996,ISBN 4-582-12804-1
「梱包」というのは,覆いをかけて荷造りすることで,「限る」という「梱」の意味が出ています.
「閾」は,読みとしては,「いき」で,「しきい」とは読めないが,意味は,しきみ,しきいということです.普通の言葉では,仕切と解釈していいのかもしれません.
漢字の読みとしては問題でも,漢字の言葉が表している対象の意味を把握していることは確かです.
さて,「threshold value,閾値」は,閾を決定する値です.上の境界点の値です.
この言葉は,多くの分野で使われていて,それらを見渡してみると,どちらを使っているかは,分野次第のようです.
分野によっては,「いきち」と読まないで,閾値を「しきい値」と
ひらがなで表記しています.