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”stored program”と”プログラム内蔵方式”state, status and condition : 状態と条件 求める,探す  

ことのはの散策

 

”stored program”プログラム内蔵方式

原語と訳語の対応と乖離:その1

 

                                                                                      上智大学 伊藤 潔

                                                                                            2005年9月15日

 

 
 原語と訳語の対応を知っていれば全然問題ないのですが,元々は英語の専門用語が,日本語に訳された後,訳語が一人歩きして,誤った解釈が広まってしまう場合があります. そんな解釈するはずがないと思われそうですが,原語と訳語の対応と乖離の落とし穴があります.

 コンピュータの原理の基本である,“stored program”は,主記憶(main memory)にプログラムとデータを入れ,これをCPUで実行する方式です.すなわち,これにより,コンピュータは,プログラムを入れ替えることで汎用の用途(general purpose application)が可能な機械です.別の言い方をすると,コンピュータは,プログラム可能な(programmable)機械です.これより以前のコンピュータは,プログラムのロジックを配線して,これをコンピュータに接続して実行する方式だったそうです. 今は,プログラムをコンピュータ内部の主記憶に入れて実行する方式(“stored program”)を採っています.

 “stored program” の訳として,”プログラム内蔵方式”が使われていることが多いですが,通信分野で,”蓄積プログラム方式”と訳されていることもあります.

 “stored program” ,すなわちプログラムをコンピュータ内部の主記憶に入れて実行する方式が,“プログラム内蔵方式”です.「内蔵」は,何かが初めから入っている,というニュアンスがありますね.このため,この日本語の用語から,誤った解釈をしていることがあります.

 内蔵という言葉に引きずられた,誤った解釈は次のようなものです.「プログラム内蔵方式は,初めから製品にプログラムがインストールされていることで,プログラム制御による家電製品(最近の製品はこれがほとんど)が ,プログラム内蔵方式である. 家電製品はどれか1つの仕事に特化しているので,他のプログラムは不要なため,プログラム内蔵方式は好都合である.その一方で,PCは自分で後からソフトウェアをインストール しなければならないので,プログラム内蔵方式ではない.」 これは誤りです.
 また,「PC購入時に予め入っているプログラムのことで,OSなどのプログラムがそれである.」も同様な誤った解釈でしょう.

 「プログラム内蔵とは,FDなどではなく,CPUに直接組み込まれているプログラムのこと」 という解釈もありますが,メモリの存在は,何処に(いずこに).
 
 また,少し技術的な話になりますが,「主記憶中のRAMに入っているプログラムを実行している方式は,プログラム内蔵方式ではない.ROMに入っていなければならない.」 という解釈もあるようです.RAM,ROMのいずれであろうと,そこにプログラムを入れて,CPUで実行するのですから,誤っています.プログラムの入換えの頻度は,ROMの場合は小さく,家電製品のROMに入っているプログラムは,家電メーカのほうでセットしますが,実行の方式は,“stored program”の方式です.PCもstored program”の方式です.

 原語“stored program” の訳語として,”プログラム内蔵方式”が対応していますが,訳語の誤った解釈から,意味の乖離(分離)が始まってしまいます. 


 原語と訳語の対応と乖離の問題は,他にも多くあるので,稿を改めて,順次見ていきたいと思います.

 
       
  stored program プログラム内蔵方式
蓄積プログラム方式
 
       
  general purpose application 汎用の用途  
       
  main memory 主記憶  
       
  programmable プログラム可能な