heuristics: 経験則
上智大学 伊藤 潔
2005年10月31日
heuristicは「発見的な」と訳されます.Oxford Dictionary of
Englishによると「人が自分で何かを発見できたり学習できたりする様」です.
人工知能や知識工学の分野で使われるheuristicsは,「経験則」と訳されます.執筆を一部担当したSPED
TERRA(スペッドテラプロフェッショナル英和辞典,堀内
克明編者代表,小学館ISBN4-09-506711-X,2004.7)にも記しましたが,これは,「その妥当性が必ずしも論理的には説明できないが,経験上,有効であると考えられる規則,方法,知識」のことです.
通常,人間の経験則が組み込まれている方法であるheuristic
methodを「発見的方法」,人間の経験則が組み込まれているルールであるheuristic
ruleを「発見的規則,ヒューリスティックルール」,人間の経験則が組み込まれている探索法であるheuristic
searchを「発見的探索」と訳します.どうして「発見的」なのか少し説明します.
人間が何かを発見したり思いついたりするとき,作用しているものは何だろうかと考えると,決して科学的な言い方とは言えませんが,それは,ひらめき,勘,直感,経験,知恵,知識でしょう.コンピュータのプログラムにそれらの全部を,特に,勘や直感などを搭載することは,現段階では無理です.
大規模な探索や分析を行うとき,これ以上やっても仕方がないと,探索や分析を打ち切ったりしないと,計算時間が膨大になってしまうことがあります.そのような場合,分析や探索をするために使っている変数だけではなく,周りの変数との関係で,打ち切りの判断をすることがあります.また,ネットワークなどの構造を持った対象を扱って,分析や診断を行うとき,ミクロな構造のみに着目して処理を進めると,やはり計算時間が膨大になってしまうことがあります.そのような場合,もう少しマクロな構造,部分的な構造に成り立つ性質や関係を使うことがあります.
人間が行うとしたら,このような打ち切りの判断や構造に関する性質や関係などの知恵や知識を上手に使って,発見的に進めているだろうということが考え方の前提です.この前提の類推で,知恵や知識をプログラムに取り込んだ方法を,heuristic
method「発見的方法」やheuristic
search「発見的探索」とよんでいます.人間の専門家(エキスパート)の知恵や知識は経験に基づくものが多いという考えで,知恵や知識をheuristics「経験則」とよぶことが多いです.知識工学の分野のエキスパートシステムでは,知恵,知識,heuristics「経験則」を知識ベースに取り込んだシステムです.
heuristic | 発見的な | ||
heuristics | 経験則 | ||
heuristic method | 発見的方法 | ||
heuristic ruleを |
発見的規則, ヒューリスティックルール |
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heuristic search | 発見的探索 | ||