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ことのはの散策

 

ドメイン分析,ドメインモデル,ドメイン知識
 


                                                                                      上智大学 伊藤 潔

                                                                                            2005年9月26日

 システム開発の効率化を図るため,対象のシステムの分野が固有にもつ性質や知識を有効に使おうというアプローチがあります.分野,領域をドメイン(domainと呼びます.有効に利用するために,そのドメインを組織的に有機的に分析しよう,というのが,ドメイン分析(domain analysis)です.
 

Neighborsは,ドメイン分析を「あるドメインで,そのドメインのエキスパートが重要と考えるオブジェクト,操作,関係付けを識別しようとする試み」と定義しました[Neighbors 1981].また,Prieto-Diazは,「新システムを構築する際にこれまでの構築の情報を再利用する目的で,システムの開発に使用した情報を識別し獲得し組織化するプロセス」と定義しました[Prieto-Diaz 1990]

 筆者らも,このドメイン分析に興味を持ち,90年代の後半から2000年代にかけて,情報処理学会ソフトウェア工学研究会ドメイン分析・モデリング研究グループで,ドメイン分析について考察しました.そこでは,システム開発全体にスコープを広げて,ドメイン分析を「対象システム自身が本来もつ各種の性質や開発上の様々な知識を十分に分析し認識して組織化し,システムの開発に有効な,共通の対象領域(ドメイン)に属する,用語,問題のとらえ方,システムの構造,システムの作り方などの,固有な概念構造を得るプロセスである.この概念構造をドメインモデル(domain model)とよぶ.このドメインモデルで,複雑で大規模な実際のシステム開発での生産性の向上と再利用の促進を図る.」と定義しました [伊藤et al. 1996]


 用語,問題のとらえ方,システムの構造,システムの作り方などは,システム開発を効率化するためのドメイン知識
(domain knowledge)です.ドメイン知識という用語は,領域知識,領域固有知識などと訳されます.ドメイン知識は,システムやソフトウェアの開発の分野だけで使われる言葉ではありません.

知識工学やエキスパートシステムシステムでは,分野の専門家(エキスパート)のもつ分野固有の知識のことをいい,そのような知識がなければ,分野に固有な推論や判断ができません.具体的な問題には適用できない,ただの推論システムになってしまいます.

 シーン解析にもドメイン知識が使われます.分析の効率を上げるために,対象となるシーンの対象領域を一定程度決めます.その領域で,映っている事物の性質やそれらの関係が決まります.ドメイン知識を背景知識と訳す場合もあります.背景知識は,何かの分析をするときに,その分析の対象物の領域でどのようなことが前提とされているか,対象物を認識するための背景となる知識ということで,映っている対象物の背景となる風景に関する知識ではありません.


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参考文献>

  [Prieto-Diaz 1990]Prieto-Diaz,R.: Domain Analysis: An Introduction ACM SIGSOFT, Softw. Eng. Notes, Vol.15, No.2, pp.47-54 (1990)

  [Neighbors 1981]Neighbors,J.M.: Ph.D. Thesis, Univ.Calif. Irvine (1981).
  [
伊藤et al. 1996]伊藤潔,杵嶋修三,田村恭久,廣田豊彦,吉田裕之編著:ドメイン分析・モデリング:これからのソフトウェア開発・再利用基幹技術,共立出版,(August 1996).]