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  development と evolution の距離感 in ことのはの散策 by 伊藤潔 working:活動中の,使える

ことのはの散策

 

development と evolution の距離感


                                                                                      伊藤 潔

                                                                                            2018年1月1日

 

 日本語での,発達,発展,進化について,まず,述べます.

 発達と発展は区別されて使われないことも多いですが,発達は,ある方向に進むことに対して,発展は,拡がりをもって進むことです.進化は,複雑に分岐していく様を表したり,分岐を経て,すぐれたものに変化していくことを表します.

 development は,巻物(volume)など,包まれているものをほどく,解くという意味があります.比喩的に「(物事の可能性を)開く」という意味合いで使われるようになりました("develop の項",シップリー英語語源辞典,ジョーゼフ・T.シップリー,梅田修訳,大修館書店,2009年10月).ここから,「発達させる,展開する,開発する」などの意味で使われています.

 evolution は,もともと"unrolling a book"(英語語源辞典,,寺澤芳雄編,研究社,1997年6月 )で,このbookは,volumeと同義です.「(巻物,本)を,(転がして)解く,広げる,開く」という意味合いで,「(徐々に)展開する,(徐々に)発展させる,進化させる」などの意味で使われています.

 evolution が,徐々に,少しずつ開く,というニュアンスがあるのに対して,development は,パアンと開くというニュアンスです.

 development は,「発達させる,開発する」などが適しています.evolution は,「(徐々に)発展させる,進化させる」でしょう.

 言語学で使われているdevelopmentとevolutionを見てみます.

 言語学者 田中克彦さんは,著書 (ことばとは何か 言語学という冒険,田中克彦,講談社学術文庫,2009年)の中で,

 “・・<略>・・・.このことによって,言語学から多くのものが失われた.その1つは「発展」という概念である.ソシュールは,「発展」ということばに代わってevolution(進化)ということばを用いる.おそらく発展が歴史に応ずるとすれば,「進化」は脱歴史の概念の応ずるものとして用いられたのであろう.” とあります.

 この中の「発展」は,developmentです.


 高エネルギー宇宙物理学者 桜井邦朋さんは,著書(日本語は本当に「非論理的」か 物理学者による日本語論,桜井邦朋.祥伝社新書,2009年)の中で,

 “日本語の体系は,歴史上でもずいぶん大きく変わってきたし,今も変わり続けている,言語の体系は常に進化しつづけている.・・・<中略>・・・.進化というと,私たちは物事がよい方向へと変化していくのだと,つい考えがちだが,英単語のevolutionには,よい方向へという意味は含まれていない.・・<中略>・・・.ことばの体系の進化もまた,ダーウィンが構想した進化の過程と同様なものなのである.進化の過程は無目的で,方向は中性(neutral)なのだ” とあります.

 以上は,言語についての文章です.この中で,languageのdevelopment とevolution という言葉についての意味合いの違いが示されています.

 他の分野では,evolution に,脱歴史,無目的,neutralというまでのニュアンスを強くはもたないで,,「(徐々に)発展させる,進化させる」という意味で使われています.例えば,software evolution は,新しい環境,要求に適合させるようソフトウェアをmodifyさせていく,「ソフトウェア発展,ソフトウェア進化」 です.