情報システム工学の研究と教育
							機械工学科 伊藤 潔
<情報システム工学は実学指向>

 私の専門とする情報システム工学では,計算機を使ったシステム化の方法を研究します.
その際に,常に念頭に置いていることは,実際から遊離しないこと,実際から離れていて
もその距離を認識できることです.研究に使う方法やツールは,あくまでも,その適用条
件をよく知り検討した上で使うことが重要です.
 この念頭に置いていることを実現する上でも,また,大学での研究はともすれば独善的
に陥ってしまうことがありこれを避けるためにも,大学の外との連携を重要なものと考え
ています.企業の研究者と共同研究を進めること,複数の企業や大学の研究開発者の方々
と,学会の中にプロジェクトを作って共同研究を進めることを行っています.
 あえて当然なことをいいますが,それらの学外の研究開発者の方々との共同研究やプロ
ジェクトで再認識したこととして,システム開発の研究にとって,その解法のalternatives
として,ソフトウェア,人間の作業,数学,数理モデルなど様々なものがあることです.
この認識が,研究が実際から遊離しないこと,実際から離れていてもその距離を認識でき
るための重要な鍵です.

<研究室内の研究>

 実際的な効果のある研究をしようとする中で,4年生も大学院生も,大学の中に留まら
ない,学外の学会レベルで発表できるようなテーマを行っています.当然のことながら学
生も論文の共同執筆者です.大学院生には少なくとも在籍時に一度は学会発表を行うこと
を奨励しており,その一環として1994年度,1997年度,1998年度に,海外の国際会議に
大学院生を派遣しました.1999年度も派遣する予定です.
 研究室の目的は,ソフトウェア工学やシステム工学が基礎となり,様々な方法論やモデ
ルの適用可能性・限界・使い道を探りながら,システムを開発する方法論を多面的に研究
することです.この視点に基づいて,学生は最先端のテ−マの研究を進めます.理工学部
に多い,チ−ムの形態で研究を行います.初めは教員が学生にテ−マの基礎事項や研究の
進め方を教えますが,徐々に彼らとの共同研究の形態に進みます.時間的な拘束や制約を
できるだけ排除して自主性に任せることにしています.
 以下に,私の研究室の研究テーマを記します.

<ソフトウェア工学とドメイン分析・モデリング>

 ソフトウェア工学は,ソフトウェア開発を,要求分析・設計・実装に分けて,ユ−ザや
発注者の意図を漏れなく正確に把握したり,ソフトウェアの内部の実現方式などを確定し
て,以降には誤りや曖昧さを伝えないようにします.このために,種々の静的な仕様化技
術と,ソフトウェアの動きを人に見せる動的なプロトタイピング手法が有効です.
 この中で特にソフトウェアの再利用を目指したドメイン分析・モデリングは,アプリケ
ーションやソフトウェア群を分析し,用語,問題の捉え方,ソフトウェアの構造,ソフト
ウェアの作り方などから成るドメインモデルを獲得し,それをソフトウェアの開発時に再
利用しようとする技術です.得られたドメインモデルを,そのドメインに属するソフトウ
ェアを繰り返して開発する際の用語集,ひな型モデル,標準モデル,ライブラリ,ハンド
ブック等として使い,ソフトウェア開発の生産性と再利用性を向上させることを目的とし
ます.この研究は,学外者との共同研究グループ(10企業,3大学,18名)としても進行
しており,この成果の1つとして,共同研究グループは,共立出版から,1996年7月に
「ドメイン分析・モデリング -これからのソフトウェア開発・再利用 基幹技術-」を
発刊しました.また,1998年11月 Gordon and Breach Publisherより,
Domain Oriented Systems Development: Principles and Approachesを出版しました. 


 また,オブジェクト指向技術と結合したソフトウェア開発方法論の共同研究プロジェク
トを青山学院大,上智大,筑波大,立命館大で行っているます.

<エキスパ−トシステム>

 動的なシステムの改善やスケジュ−リングを厳密に行なうために,専門家は,種々の解
法を巧みに組み合わせたり直観的な経験則や知識を用いています.エキスパ−トシステム
はこのような経験則や知識をソフトウェアとして実現したものです.待ち行列ネットワ−
クに対する性能改善エキスパ−トシステムや石油出荷ヤ−ドのためのスケジュ−リングエ
キスパ−トシステムを研究開発しています.特に前者では定性推論法を活用し,ネットワ
−クの挙動について,数少ないパラメ−タ間の因果関係でモデル化し,数少ない定性式で
説明や推論を行なう方法を独自に開発しています.

<モデル化とシミュレ−ション>

 性能評価の手法として,待ち行列ネットワ−クやペトリネット等を用い,具体的な対象
システムに対するシミュレ−ションを通して研究しています.数学的な方法もできるだけ
採用すると同時に,実際的な適用上の限界も探るようにしています.通信ネットワーク,
例えば,ATMネットワーク・トラフィックのルーティング方式による評価,分散処理シ
ステムへの機能配分・性能配分エキスパートシステム等が対象です.

<三面図からの物体の自動合成>

 工業図面の基礎となる三面図から物体の自動合成を行う研究で,代数解法で解く方法を
研究・開発しました.他の研究機関ではとられていない独自の方法です.

<インターネット/マルチメディア>

 新しい情報処理技術に対応すべく,インターネットやマルチメディア技術の導入評価を
行っています.その一環として,インターネット上の情報システム工学向きに動画を主と
したマルチメディア教材,アイコンを定義可能なチャート編集システム,環境情報データ
ベースからのデータ収集と可視化等の研究を行っています.