研究の抱負 川端 亮
上智の情報理工学科のキーテーマ「社会情報」では,情報を活用し,人や組織の活動を支えるために,人と社会にやさしい情報システムとして実現することを目指しています.このためには,人や組織の活動に関わる,知識,経験の再利用と継承をいかに行うかということが課題です.人と社会にやさしいとは,
・ 簡単に知識・情報を蓄積すること
・ 知識・情報を探しやすくすること
・ 知識・情報が利用しやすいこと
・
わかりやすいこと
・ 直感的であること
が求められると考えます.そのために,これらの要求を満たす,知識の蓄積方法,利用手順を明らかにしていくことが必要です.知識を再利用できる仕組みをシステムとして実現することは,システム開発の効率化だけではなく,教育,学習へ適用することで,教育・学習効果を高めることができ,また,人の生み出した素晴らしい知識や経験を継承していくことの一助になると考えます.情報システムを作ることを効率化するということだけでなく,蓄えられた知を使いながら,さらにその上に積み重ね,新しい発想・価値を生み出すことにもつながります.
私は,情報システム工学,ソフトウェア工学の分野で,これまで,以下の3つを中心に研究を行ってきました.
(1) 概念の整理とシステム分析手法の研究
システムを記述し表現するために,Data Flow
Diagram, Entity Relationship Diagram,
UMLなど様々なダイアグラムが開発されています.それらの使い方は,販売システム,生産システム,金融システムなどによって,どのような手順で何を書けば良いかという使い方が異なっています.これはそれぞれの分野固有の概念があるからです.これを明らかにし,手順化し,コンピュータ支援のツールとして実装する.
(2) 分析設計結果の蓄積と再利用法の研究
システムの分析,設計は,既にあるシステムを元に行われることが多い.分析,設計で使われるダイアグラムの中で,これから作ろうとするシステムに類似したシステムのダイアグラムを再利用できるよう,ダイアグラムを知識表現に変換,蓄積し,検索する方法を考え,コンピュータ支援のツールとして実装する.
(3) システムのシミュレーション
分析,設計したシステムは,仕様書に基づいて最終的に実装しコンピュータ化しますが,事前に,機能面,性能面から妥当であるかどうかの評価をすることで,早い段階で誤りや不具合部分を見つけることができる.そのため,各種ダイアグラムによるシステム記述を機能面,性能面からシミュレーションし確認するツールを実装する.
近年は,この研究に,概念を体系的に表現するオントロジを導入することを行っています.このオントロジをシステム分析設計向きに,どのように使っていくかを明らかにしていくことに取り組んでいきます.
オントロジとは,元々,哲学の用語で,存在に関する研究です.これがコンピュータに関する研究分野で使われるようになってきています.システムの分析,設計ではそのシステムを明らかにする過程で,言葉を用いて,人,物,情報などのシステム化の対象を表現します.同じ言葉でも様々な業務分野(ドメイン)において,固有の意味を持ち,また,他の言葉との関係も異なって使われています.オントロジでこれらの言葉の関係を整理しておき,それを使う事でシステムの分析・設計の作業の手助けとなり,作成される文書の質を向上させることにつながります.オントロジについて,多くの研究がされていますが,システムの分析,設計にオントロジを適用するということで見ると,まだ,解明しなければならないことが多くあります.
例えば,多くの研究では,その世界に存在する概念同士の関係を静的に表していますが,情報システムで実現するものは,作業の積み重ねで,時間や条件も含まれた動的な側面を持っています.これらは,現在あるオントロジとどのような関係になってくるのかということを明らかにしていく必要があります.最初に述べた,知識・情報を蓄積し利用するという点でもこのオントロジをどのように関係させ使っていけるかということも探求していければと考えます.
以上のことを目標に,情報システムの開発という観点から,他教員との連携し,学外と研究交流を行い,また,学生に,この分野の教育をしながら,ともに研究活動を進めていきます.