教育の抱負 川端 亮
コンピュータを使った情報システムが身近なものとなり,スマートフォンを始めとする携帯型端末の普及もあり,これらを使って新しいものを作り出したいと考えて入学してくる学生が多くいます. 彼らと接する中で,情報系の技術進歩が早いという点で変化してきていると感じ,それに応じた教育の仕方を考えていく必要があると考えます.
1つ目は,昔の学生であれば知っていた概念を今の学生は知らないということが増えてきていると感じます.
スマートフォンのアプリなど,一般利用者に簡単に使え便利になっている一方で,それらがどのように実現されているのかというソフトウェアやハードウェアの仕組みが見えなくなっています.これは,人と社会にやさしいシステムが実現されているということの現れで良いことです.一方で.この仕組みは,少し前の理工学部の学生であれば,日常的にPCを使うために,ある程度,PCの仕組みを知ることが必要で,自然とついていた知識ですが,今では知らないという学生が増えることも起きています.
現在のソフトウェアや情報システムは,過去からある技術の積み重ねでできあがっており,ブラックボックス的に中身を知らなくてもでき,一般利用者の立場では中身を知らなくても良いことですが,社会に出てこの分野に携わっていく多くの情報理工学科の学生には,よりよい物を生み出すためにも,これらの内容を理解していることが求められると考えます.
情報技術の進歩が早く,環境の変化も早いため,私が教員になった頃と現在とでは,同じ内容を説明していても,学生の生まれ育った時代に,どのような技術が普及し使われていたのかということを意識しないと伝わらないことが増えていると感じます.
例えば,ファイルには,アプリケーションプログラムのファイルとデータファイルの2種類がありますが,今は,アイコンをダブルクリックするだけでこの2種類のファイルの区別を意識する必要がないため,そのファイルがプログラムなのかデータなのかの区別がつかない学生もいます.また,例えば,最近は,多くの学生がLINEなどのSNSを使ってIDを交換しているため,相手と連絡しているため携帯電話の番号やメールアドレスは知らない,少し前の学生は,携帯電話の番号やメールアドレスを携帯電話同士の赤外線通信で交換していたなど,時代によって変わっていることがあります.
このようなことも踏まえた上で簡単に使う事ができるようになっている情報技術だが,表面には見えないが実は裏では,様々な技術を組み合わせて高度なことをやっているということを教え,興味を持って理解ができるように努めたいと考えます.
2つ目は,学習方法の変化についてです.
インターネットで検索することで,調べたいことを簡単に知り,勉強することができるといういい面もありますが,一方で,ノートに書くことなく,写真撮影をし,レポートは,Copy
& Pasteするという楽な方向に流れ,考えることがないため理解が深まらない学生も少数ですが出てくる悪い面もあります.調べることができても,そこに答えが書かれているのに,内容を理解していていないため,それが答えだと認識できていない学生がいるということも聞きます.
新しい技術を活用し,学習を効率化する道具として使うことは良いことですが,内容を理解し身につけるためには,自分の手で書いて頭を使って考え,質問し議論するなど時間のかかるアナログなことも,この時代だからこそ重視することが必要だと,最近,改めて認識しています.Moodleなどのコンピュータを活用した教育のための新しい技術を取り入れつつ,従来のやり方もうまく組み合わせて,学生の理解につなげるようにしていきたいと考えます.
これまでの教育経験の中で,多くの学生が理解できずに苦労している内容があります.例えば,演習では,配列を使ったプログラミング,講義では,インタプリタの仕組みなどです.毎年,例題・問題を加えたり,スライドを追加したりして工夫を重ねていますが,個別に受けた質問や,試験の結果を見ると,十分に伝わっていないと思います.以前より理解してもらうのが難しいと感じていましたが,最近は特に,理解している人としていない人の差が広がっているように感じます.何が理解の妨げになっているのかを考え,それに対応した教え方を探求していきたいと考えます..
さらに,情報理工学科以外の学生に対しても,主に情報リテラシの科目で,大学での学習,研究,調査,学外での活動,社会に出てからも活かすことのできる実践的な教育をしたいと考えます.文科系の学生も企業等において作る側に関わる人も多くいます.情報リテラシ・システム情報処理・プログラミング技法等の科目において,コンピュータの使い方だけでなく,人間同士・人間とコンピュータ間で知識や考えていることをやりとりするとはどういうことかという観点で,情報について伝えていきたい.また,その中で,文科系の学生が受講する授業・演習を通して,理科系とは異なる文科系の学生の考え方,情報のとらえ方を観察し,教育・研究に取り入れていきたいと考えます.