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大学の研究形態     伊藤 潔



 1990年の秋,通産省系のソフトウェア工学研究財団の派遣により,ソフトウェア工学(ソフトウェアをいかに効率的・合理的に開発するかという生産技術を研究する分野)の現状と将来技術について,ドイツとフランスの約10の研究機関へ調査に出かけました.ドイツではあまり感じませんでしたが,フランスの大学や研究所を訪れた時に研究形態について日本との違いを強く感じました.

 フランスでは,研究所や大学の学科等の1つの研究機関が,数十人の規模で,極めて限定された1つのテーマについて様々な観点から研究を行っていました.そこには,他の研究所や大学,民間企業からの研究者も集まり,さらに,大学であれば院生も巻き込んで(博士等の学位論文),国の予算や企業の出資金を基に研究を進めていました.確認はしていませんが,テーマが重ならないように,全国規模で研究機関毎にテーマを割り振り,重点的に研究を進める仕組みがあるように思われます.また,研究機関によっては,研究した内容を商品化し,販売まで行う会社をその中に持っているものまでありました.(選択されたテーマの内容についての言及はここではしません.)

 訪れた以外の所には,日本の大学と同じように個々人で研究を行っている人達が数多くいると思います.しかし,上で述べたような研究形態が日本の大学で採られていることは,ほとんどないと思います.同じ学科の研究者が同じテーマの研究を行っているなどということは,同じ講座や研究室を除き,数人ですらまずありえないでしょう.日本の大学では,講座や研究室の異なる隣の研究者のテーマには,口を出さない,干渉しないことが不文律のようになっているようです.日本には国立大学を中心とした共同研究施設が多くありますが,そこでのテーマはもっと多種多様です.また,日本の同じ業種の民間企業が集まって作る共同研究開発組合は,上で述べた形態に近いけれど,上ほどテーマを限定していないし,これまでの共同研究開発組合の場合はハードウェアを研究することがほとんどでした.

 日本の工学部出身としては,日本の大学の研究形態が当たり前だと思っていましたが,工学の研究形態としては果たしてどちらが効率的・合理的なのでしょうか.